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ある日のなか志まやの出来事、つれづれ

2015年12月の店主日記
[過去の店主日記一覧]
●2015年12月30日(水)

来年の目標

画像は、光佳染織 横内佳代子さんの帯です。
経糸は生糸座繰り、緯糸は玉糸座繰り、糸撚りも打込みも締め心地の良さを計算された綾織りの格子帯(染料は草木)は、普段着使用でありながらその上質な布味から、今の時代によく言われる『スマートカジュアル』と呼ばれているTPOに締めて頂くのちょうど良いと思います。

来年は『座繰り糸』の良さが伝わる着物や帯を、お客様により多く提案出来るようにしたいと考えています。なか志まやのオリジナルを川村くんや櫻井さんにも、どんどん作って頂きたいと考えています。
そして、志賀松和子さんの生絹(すずし)の織物は1月の八丈修行を経てさらに大きく変化、進化をすると思います。詳しくはお話出来ませんが、次の作品がどんなものになるか、いまから大きな期待を寄せています。
これは大きな財産を受け継ぐことに匹敵すると考えています。

つまり、『美しい染織を、今の和装としてなか志まやらしく組み立てる』が来年の目標であり、来年も再来年も変わらず持ち続ける目標です。呉服屋を続けれる限り追い求めていく目標です。
どうか今年以上に多くの変化、進歩をお客様にお見せ出来ることが出来ますように!

●2015年12月22日(火)

新作のお知らせ

着物 志賀松和子 生絹平織(緯浮柄横段) 売約済
帯  勝山健史  塩蔵繭 団唐草

志賀松和子さんの新作着尺が入荷しました。杉綾、まるまなこと綾織りの着尺が続いたので、今回は彼女の原点に戻り平織りです。経緯の糸ともに生繭より、彼女が糸を挽いています。お蚕を育ててはいませんが、その他の行程は、糸つくりから染め、織り、仕上げまで全て彼女一人で行います。そのため、生産反数は多くはないのですが、その絹織物の美しさは格別です。

『光り過ぎず、柔らか過ぎず、経年変化がすぐに実感出来る布』
生絹ですので、仕上げは砧打ちを施します。着手の着物への慣れの具合で、柔らかさを調整して仕立てをします。一度目よりも2度目、3度目とお召し頂く毎に身体に馴染ます。それは『恐ろしく馬力のある車を徐々に乗りこなして行く感じ』でしょうか(もうちょっと女性向きの喩えをしたいのですが)。

グレーとパープル、ほのかなグリーン味を後ろに隠し持った色、白花色。白っぽい着物と言ってしまうには、この着物に失礼になる気がするくらい美しいです。
浮き柄でランダムに柄を入れてあるので、生地の動きでさらにニュアンスが出て来ます。

『なか志まやが好むグレー地で!』、と勝山さんに頼んで織って頂いた『団唐草』名古屋帯を合わせてみると、『透明感』という言葉すぐに浮かぶ取り合わせになりました。いま一番お気に入りの取り合わせです。

●2015年12月02日(水)

勝山健史さんのモダンな帯。ようやく相性のとてもよい着尺が入荷しました。帯は千鳥格子を細かく織り出し、それを大胆な縞柄でデザインしたもの。塩蔵繭の名古屋帯です。

着物は白たか織のたつみ綾織。佐藤新一さんの工房で制作されたものです。
綾織の組織柄はいろいろとありますが、このたつみ綾はかなり複雑な組織で織り手も限られます。9月の婦人画報に掲載した八丈のたつみ綾と組織は同じですが、白たかのたつみ綾のほうが、軽めに織り上がっています。


●2015年12月01日(火)

店主のつれづれ  『京都の東山』

東山を眺めるといつも思い出すことがあります。故塚田晴可さんはこの東山のどのあたりに、銀座ギャラリー無境を移転させるつもりだったのだろうと。

生前には一度しかお目に掛かれなかった。塚田さんが残してくれた2冊の本を、いまでも時々見返しては、逸品の取り合わせの妙技をいかにして着物に活かそうかと安直な考えも持っています。もし無境になんども行くことが出来ていたなら、僕の呉服のスタイルも大きく変化していたんだろうなと、容易に想像がつきます。そのくらい魅力的な『美の取り合わせ』を見せてくれました。

先日、法然院に向かう坂にあるギャラリーでこの額を衝動買いしました。一見、銅板や木片のように見えるかもしれませんが、和紙に漆を塗ったものです。なのでかなり軽い。真ん中より少し上の位置、裏側には木が通してあり、そこに釘をさして花器を取り付ける事が出来きます。一輪挿しなんでしょうが、物臭な自分には生きた花を扱うには荷が重いので、『布の裂地』を貼付けようと考えてます。古渡りの裂かもしれないし、現代の染織のものかもしれない。それはこれから探していくつもりです。

塚田さんの本にこう書いてあります。
『暮らしの中に特別な空間をつくることから始める。それは贅沢な場を作るというのとは違います。自分にとって一番大切な、朝に晩にふと目を向けたくなるような、そんな空間です。それはそれで立派なギャラリーとなるのです。』

美しいものを手に入れたとすると、そこに美の連鎖が起こると考えています。まして美の本質に迫るようなものを幸運にも手に入れたなら尚更です。その美しいものを飾るスペースを作ろうとするでしょう。似つかわしくないものを整理し、近くに何を持って来れば、そのものがさらに美しくなるのかと考えるでしょう。

呉服屋の都合の良い詭弁と言われるかもしれませんが、これと同じことが着物にも言えます。一つの美しい帯を手に入れる事が出来た時からものを見る見方が変わり、着物と帯の取り合わせが、ガラリと変わることがあります。それは一つの美しい帯締から始まることもあります。陶芸であろうと、古美術であろうと、そして着物であろうと、美しいものには必ず強さと優しさを併せ持っていると塚田さんは言います。どこで誰が作ろうと、その両方を含んだ魂に境は無いと。

良い着物や帯、そして小物の中には、とても扱いやすい、不思議となんにでも合ってしまう、そんなものがあります。
見る度に表情を変え、着ている本人にエネルギーを与えてくれるものもあります。そしてたとえ長い時間を経ても美しいなと感じるものがあります。そういうものを暮らしの中の傍らに置く事が出来て、お互いに補完しあっているような心地になれたなら、こんな豊かなことはありません。

『美しい』ものを提案するのは、呉服屋としての使命です。そしてそれが日々の暮らしの中で、ちゃんと息づいて行けるようなものであること、そこまでの提案が出来る呉服屋でありたいと願っています。
『今度、君の店に行ってみるよ!』これが私にとって塚田さんの最後の言葉になりましたが、最高の励ましの言葉と今でもなっています。